外科矯正レポート[B](先生の回答)

掲示板などでよく話題になるトピをアンケート風にまとめ、私の主治医であるK先生にお渡しし、そのお返事をアップしています。

レポート[B](先生への質問内容)

Q1.顎変形症患者に対する外科的矯正治療

Q2.上顎も手術をすべきかどうか

Q3.エステティックラインについて

Q4.上顎骨手術後の鼻の形態変化について

Q5.移動量が何ミリから手術を行うか

Q6.後戻りについて

Q7.再手術

Q8.オトガイ形成術について

Q9.口腔外科と形成外科

Q10.プレート除去手術に関する先生のお考え

Q11.チタンプレートと吸収プレートについて

Q12.口腔外科を受診する時期

Q13.麻痺・痺れについて

Q14.舌の手術について

Q15.顎間固定について

先生の回答

私の主治医であるK先生からの回答です。

Q1 顎変形症患者に対する外科的矯正治療

下顎前突症、下顎後退症、開咬症、上顎前突症、上顎後退症、顎骨非対称症例などの顎変形症患者において、機能的ならびに審美的障害に対する治療法として外科的矯正治療が行われます。基本的には、治療方針に沿って、術前矯正治療後に顎矯正手術が行われます。どのような術式を選択するかは、セファロ写真や顔面写真、CT画像、歯列模型などを用いて変形の部位と程度を評価し、患者さん自信の訴え(どこがどのようになればよいと考えるか)を解消できるように治療計画を立てます。ただし、術前矯正治療の結果によっては、移動方向や移動量に修正が必要となるため、術前に術式の検討を再度行います。

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Q2 上顎も手術をすべきかどうか

上顎が曲がっていたり、前突していたりして、上顎に変形がある場合には、当然手術の適応となります。反対咬合で上下顎の手術の適応となる症例は、以下のような場合です。

1.下顎骨後方移動術単独では後方移動量が大きくなる症例

後方移動量が大きくなると、術後の後戻りがおきやすくなります。

2.開咬を伴う症例

下顎骨が反時計回りに回転しながら後方に移動することにより、筋の緊張が強くなるため、後戻りがおきやすくなります。このような症例では、上顎臼歯部を上方に移動させて、下顎骨が真っ直ぐ後方に移動するようにします。

3.非対称を伴う症例

下顎骨の手術だけでは、対象性が改善されない場合には、上顎骨を水平にする手術を行います。

4.笑った時に上顎の歯肉がかなり見えてしまう症例

このような状態をガミースマイルといいます。そのような場合には、上顎骨を上方に移動させて歯肉があまり見えなくなるようにします。

当院における顎矯正手術では、20年前は9割が下顎単独症例でしたが、この1年間の症例では80例中50例で上下顎の手術を行っていました。これは、上顎の手術が、術式や器械の改良によってより安全にできるようになったことと、非対称症例の増加や患者さん自信の要求の複雑化のためと思われます。

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Q3 エステティックラインについて

エステティックラインは、あくまでも目安であると思います。私の考えでは、術後の骨格形態を必ずしも日本人の平均値にする必要はないと考えます。身長、顔の長さや幅、目や鼻の形態なども考慮して、その人にとってより良い咬合ならびに顔貌形態が治療目標と考えます。ただし、治療する人間が考える治療目標と患者自身が持つ術後のイメージは、近いものでなければなりません。このあたりは、治療を開始する前に十分に話し合うべきと考えます。

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Q4 上顎骨手術後の鼻の形態変化について

上顎骨の手術では、鼻翼の部分の骨が移動するため鼻翼も移動しますが、鼻骨の部分(鼻の付け根)は動かないので、結果として形態に変化が出ます。特に、上顎骨を前方に移動させると鼻翼が広がり鼻尖が上を向く傾向が出てしまいます。それを防止するような術式もいろいろと報告されています。また、プレート除去時にも、ある程度は修正が可能です。

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Q5 移動量が何ミリから手術を行うか

これも基準はありません。矯正治療でも治療可能なボーダーケースでは、よく話し合うことが必要です。後方移動量が2ミリでも開咬があれば、手術を併用したほうが良いケースもあります。また、下顎前歯部の骨の幅が薄く、矯正治療単独では歯への負担が大きくなるために手術を行うケースもあります。

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Q6 後戻りについて

後戻りは、手術時の移動量や移動方向、筋の緊張の度合い、舌圧や舌癖など多くの要因が関与しています。最近の術式では、術後矯正治療でリカバリーできないほどの後戻りは経験しません。当院では、オーバーコレクションは原則として行っていません。それよりも、術後の咬合の安定性の方が後戻り防止に効果があると考えています。

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Q7 再手術

関節円板が転位しているような症例では、関節の位置をどの位置にするかがわかりづらく、術後に咬合が少しずれてしまうことがあります。術後顎間固定や矯正治療での修正が困難と判断したときには、再度プレートの固定をやり直すことがあります。(まれにですが)

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Q8 オトガイ形成術について

オトガイ形成術は、下顎単独もしくは上下顎移動術だけではオトガイ部の形態が十分に改善しない場合に行います。オトガイが長かったり、前に出ている場合には、真ん中の部分を抜いて短くする術式を取ります。下顎が後退している場合には、オトガイ部を切って前方に移動させます。非対称が残っている場合には、横に動かします。段差の部分は、移行的になるように削ります。オトガイ形成術は、咬合と関係ないため、審美的要素が強く、患者さんの希望が優先されます。私は、基本的にはプレート除去時に患者さんの要望があり、必要と判断すれば行うようにしています。また、この手術も保険が適用されます。

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Q9 口腔外科と形成外科

基本的には、外科的矯正治療に精通(術前矯正の必要性など)していれば、どちらでもあまり変わらないと思います。口腔外科と形成外科の別というよりは、その医療機関がきちんとした治療方針で顎矯正手術を行っているかだと思います。

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Q10 プレート除去手術に関する先生のお考え

チタンプレートは、原則として除去した方が良いと考えています。顎矯正手術では、できるだけ除去しやすい位置でプレートを固定していますが、骨折や顎骨再建の手術では除去が大変な場合もあり、このような症例では除去するための患者さんの負担とプレートを残すことのデメリットを説明した上で患者さんに選択してもらうようにしています。

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Q11 チタンプレートと吸収プレートについて

理想的には、吸収性プレートが良いと思います。日本では、PLLAという素材でできたミニプレートが2社から発売されています。われわれも、上顎の手術に使用しています。また、この夏からわれわれのところでは日本未発売の新しい吸収性プレートの治験を厚生労働省の認可のもとに行っています。吸収性プレートの欠点は、操作性が良くないこと(治験中のプレートはだいぶ扱いやすくなっています)や強度がやや弱いこと(術中・術後のネジの破折を経験しています)、高価であること(チタンプレートの10倍)などが挙げられます。したがって、現在のところわれわれは、症例や術式を選んで吸収性プレートを使用しています。

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Q12 口腔外科を受診する時期

口腔外科を最初に受診する時期は、術前矯正治療を開始する前です。まずは、患者さんの訴えとレントゲン写真や歯の模型、顔の形、顎の関節の状態などの資料をもとに、どのような手術法が良いか、術前矯正治療で歯をどのくらいどの方向に動かすか、どの歯を抜歯するかなどを矯正医と口腔外科医で検討し、患者さんに提示します。患者さんの同意が得られたところで、実際の治療が始まります。当院の矯正科以外にも10名以上の開業矯正医とこのような治療を行っていますが、○○さんのようなパターン(*1)はほとんどありません。

(*1)私の場合、手術が出来る時期になり、初めて口腔外科を紹介していただき、受診、そして手術でした。「飛び込み」のような手術だったわけです。私が通院している矯正歯科では、過去に外科手術に送り出した患者はいなくて、私が第一号だったため、矯正歯科の先生も段取り?がよくわかっていなかったようです。その結果、口腔外科を受診する時期が、「手術が出来る段階になってから」になってしまったのです。また、矯正歯科で紹介された口腔外科では手術が出来なくて、そこからまた大学病院を紹介していただいた・・・紹介の紹介・・・私もいろいろなことについてよく調べればよかったのですが・・・でも矯正を始めた頃、一度口腔外科に受診に行ってみたいというようなことはお話ししたのですが、何となく流されてしまいました。そのためギリギリになってからの口腔外科受診・・・正直、いろいろな面で嫌な思いをしました。
これから矯正・外科手術を別々の病院で受けようとお考えの方には、私のような経験をして欲しくないので、矯正歯科を受診するとともに、一度口腔外科(手術を受けようとしている病院)に受診することをおすすめします。

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Q13 麻痺・痺れについて

これは、この手術での最も大きな問題です。いろいろと工夫もしているのですが、なくなりません。

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Q14 舌の手術について

舌の手術を行うかどうかは、判断が難しいところです。舌圧が、歯の後戻りの原因であることが指摘されており、下顎を後退させて口腔内容積が減少すれば舌圧が高くなることが考えられます。しかし、ほとんどの症例では、舌骨が下方に移動し、半年くらいのうちに適応してしまうようです。一時期、当院でも舌縮小術をたくさん行っていたのですが、舌先部に若干知覚異常が出てしまうなどの問題もあり、現在では適応をかなり絞っています。

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Q15 顎間固定について

顎矯正手術では、人工的に顎骨を骨折させた形になりますので、骨が治癒するまで創部を安静にする必要があります。骨がある程度の強度で癒合するまでの期間は、6週から8週程度です。以前は、ワイヤーを用いて骨片の固定を行っていました。当院でも、この頃は6週間程度の顎間固定を行っていました。現在でも、関節への負担が少ないという理由でワイヤー固定を行っている医療機関はあると思います。術後の顎位の安定や顎間固定期間の短縮を目的として、スクリュー固定やミニプレート固定が行われるようになりました。当科では、1989年より全例でミニプレートもしくはスクリューを用いた固定を行っています。顎間固定をほとんど行わない医療機関もありますが、われわれは2週間程度の顎間固定を行うようにしています。これは、創部を安静にすることと、新しい顎位に適応する期間と考えています。顎間固定に対しては、創部の安静、咬合の安定性、咀嚼筋の萎縮、患者の肉体的負担、入院期間などの問題も含めていろいろな考えがあると思います。